昨今のモダンフットボールは、どんどん組織化が進んでいる。全員守備・全員攻撃は当たり前で、個人よりも戦術が重んじられる傾向が極めて強い。
 
 しかし、カタール・ワールドカップで決勝に進んだのは、アルゼンチン代表とフランス代表という「モダンフットボールなぞ知ったことか」というクラシカルなチームだった。
 
 アルゼンチン代表にはリオネル・メッシ、フランス代表にはキリアン・エムバペが絶対的な「王様」として君臨。この2人の背番号10は実質的に守備が免除されており、攻撃面での貢献のみが求められている。
 
 アルゼンチン代表はフリアン・アルバレス、ロドリゴ・デ・パウル、アレクシス・マク・アリステルら、フランス代表はアントワーヌ・グリーズマン、オリビエ・ジルー、ウスマンヌ・デンベレらが王様を支える戦士として、攻守で献身を続ける。
 
 現地取材していても、まるでタイムスリップしたような気分にさせられる。アルゼンチン代表とフランス代表がボールロストの瞬間は大体、メッシとエムバペが足を止めて歩き出す。そして周囲の選手が彼らの分まで懸命に走り、戦うのだ。
 

 しかも、両チームともモダンフットボールでは当たり前になったハイプレスやゲーゲンプレスをほとんど使わず、守備はリトリートからのミドルプレスが基本。攻撃はポゼッションよりもトランジションがベースだ。今大会のボール支配率はアルゼンチン代表が58%(全体5位)とやや高めだが、丁寧なビルドアップから決定機に繋がるシーンは稀。フランス代表に至っては支配率が52.6%(13位)と、主導権確保にまったくこだわっていない。
 
 たった1人の10番を特別扱いし、他の10人が黒子として献身を続け、戦術的には攻守のバランスが最優先というチームのスキームは、いわば1980年代の考え方だ。それこそアルゼンチン代表にはディエゴ・マラドーナ、フランス代表にはミシェル・プラティニが王様として君臨していた時代だ。
 
 この「王様システム」は、言うまでもなく特別扱いされた1人の選手が違いを作り出せるかどうかにチームの成否がかかっている。ここまでメッシは5ゴール・3アシスト、エムバペは5ゴール・2アシスト。いずれもチーム総得点の半数以上に直接関与するという、期待通りの活躍を見せており、だからこそ両国はファイナルまで辿り着けたと言っていい。
 
 だから12月18日のワールドカップ決勝は、メッシとエムバペの対決と言っても過言ではない。母国を世界制覇に導くのは、はたしてどちらか。
 
取材・文●白鳥大知(サッカーダイジェスト特派)


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