幼少期から大学に至るまでサッカーを続け、その後テレビ朝日に入社した寺川俊平アナウンサー。FIFAワールドカップカタール2022では、ABEMAの放送で日本戦4試合を含む、数多くの試合を担当した。

 解説をした本田圭佑との絡みも話題となったが、18日に行われる決勝戦でもそのコンビで現地から熱狂を届ける。

「W杯の日本戦の実況が夢」だったという寺川アナに夢の舞台を終えた感想と、決勝戦に向けての意気込みを語ってもらった。

インタビュー=林遼平

―――今回のW杯で日本戦を全試合担当することが決まった時の心境を教えてください。

 テレビ朝日に入社した時からの夢が、W杯で日本代表の試合を実況し、帰国後に立ち寄った居酒屋で横の席にいる人が「ワールドカップ見た?日本、最高にカッコよかったよね」と少しも実況の話にならず、日本代表のカッコよさを話していることを、お酒を飲みながら聞くことでした。今回は実況・解説が注目を浴びている部分があるので、本懐ではないところもありますが(笑)。生に近い興奮を選手たちの活躍とともに記憶に残すことができるような、その仕事に誇りを持てるようなアナウンサーになりたいというのがスタートでした。だから実は、テレビ朝日の地上波での実況が自分ではないことが決まった時、「ここしかない」と思っていたので3週間近く落ち込みましたね。

―――「ここしかない」と思っていた理由とは?

 次のW杯からグループステージの1戦の価値が変わるんです。これまで出場国が32カ国だったものが48カ国になります。最終予選の価値やW杯に出場することの価値が変わるかもしれない。W杯という舞台の尊さは変わらないですけど、出場国が増えることは必然的にそうなってしまう。そう考えた時、自分が最初に描いた夢を叶えるにはラストチャンスだと思っていました。キャリア的にも年齢的にもそうです。もともと10年前から「2022年に日本が優勝する。その時の放送席にいたい」と言ってきたんです。だから、何が何でも地上波の実況を担当したかった。だから、自分が担当しないことがわかった時、すごく落ち込んだんですが、ABEMAが「寺川で」と指名をいただいたんです。最初に描いていたものとは違いましたけど、こんなに面白そうなプロジェクトもないなと。夢だったW杯を生放送で喋れること。ましてや、レジェンドの本田圭佑さんと日本戦全試合を放送する。テレビ朝日が共同出資をしているABEMAで、新しいW杯の視聴体験を生み出すこの大きなプロジェクトに関われる喜びを感じながら、日本戦を全力でやろうとなりました。

―――日本代表はベスト16で敗れることになりましたが、4試合をやり切ったことでの思いはありますか?

 自分の実況がどうだったかは評価できませんが、本田さんは面白かったですし、やはり夢の舞台とあってすごく楽しかったですね。日本代表は全員カッコよかったですし、森保ジャパンが大好きだったので「ほら見ろ」という感じでした。メンバー選考も含めて壮大な伏線回収だったじゃないですか。もちろん、そこに賛否はあると思いますが、何か新しい形の“オレたちのサッカー”を見られたと思いましたし、そんな試合を実況できて最高に充実していました。

―――かなり反響があったのではないでしょうか。

 びっくりするほど連絡が来ました。「すごいなW杯」と思っています。喋っているだけの僕にすら連絡が来て、今回もこのようなインタビューをしていただいて異常事態だと思っています。W杯はそれだけすごい舞台なんだと実感しています。

―――素朴な疑問なのですが、サッカー実況をやる上でのルーティンのようなものはあるのでしょうか?

 僕は朝起きたらまず真っ先に革靴を磨き、アミノ酸のサプリメントを1本摂取します。時折、過剰摂取している時もありますが(笑)。実況は運動だと思っていて、眼球運動と声帯の筋肉、口の周りの筋肉を使います。それをよりいいパフォーマンスをするために、アミノ酸系のサプリメントは体に合っているので飲んでいます。やはり目の動きがすごく大事で、目の前で行われている生のプレーだけではなく、手元のモニター映像、そこから少し遅れているけどテロップが付いている映像、手元の資料、置いてある時計、ディレクターのカンペなど、見なければいけないものがたくさんあるんです。それを解説者と喋りながら確認しているので、とにかく眼球運動がすごく大事。これがわかりやすいルーティンですね。あと今大会で言えば、前日の少し落ち着いた時間に、選手が入場する際に何を言うか、ざっくり決めています。もちろん、その時に変わることもありますけど、試合前の中継をするスタジオからスタジアムの放送席までの移動も距離があり、席に着いてから10分で喋り出しをすることもあるのでそうしていました。

「夢」叶えた日本戦は「最高に充実」 寺川俊平アナが実況に込めるサッカーへの想い

ドーハ市内にある国際放送センターのメイン中継室前にて

―――やはりW杯の熱気や雰囲気によって急に言葉が出てくるようなこともあるんですか?

 それで言うと、今回はあえて言葉を喋らないというやり方をしていました。コロナ禍でしばらく歓声がなかったこともあり、より歓声の大きさに尊さを感じていて、僕が何かを喋るよりもそれを聞いてほしいと思っていました。例えばPK戦の時も言葉はいらないと思いました。テレビだからこそ、余計なことを言うよりも音と映像で伝わるものがある。ここまで意識してやったのは初めてかもしれません。喋らない良さがあるとよく言いますが、今回は言葉を出さないやり方をしたシーンがいくつかありました。

―――サッカー実況だからこそ普段と違って意識することはありますか?

 W杯に限って言えば、喋る国の歴史をしっかりと感じることかもしれません。日本サッカーだけでなく、相手チームのサッカーの歴史を知ること。対戦国と日本サッカーの対比を意識すること。例えば、クロアチアならばわかりやすいところでいうと1998年のフランス大会が初出場だったことは日本と一緒です。日本はあまりに悔しい結果でしたが、クロアチアは3位という結果を残した。選手だけでなく、国のサッカーとしての歴史を理解した上で話すことは一番大事にしなければいけない。そこを念頭に置いた上で喋るのは、他のサッカー実況より色濃いかもしれません。

―――今回は決勝戦で実況席に座ります。多くの注目が集まる一戦に向け、意気込みはいかがですか?

 日本が敗退した後の決勝トーナメントをどういうテーマで喋ろうかと考えた時に、一つ思ったことがありました。吉田麻也選手が試合直後のフラッシュインタビューで「これを見た子どもたちが、またサッカーを好きになって、いつかこの壁を破ってくれることを信じています」と言っていました。決勝を見た子どもたちが、いつか自分が日本代表としてあそこに行くんだとイメージしてもらえるような、すごくキラキラした決勝戦をそのまま伝えることをテーマに喋っていきたいと思っています。

―――実況者として最後に視聴者にどうサッカーを楽しんでほしいか教えてください。

 ちょっと質問に対する答えとしては違うかもしれません。ただ、少し言い方が難しいですが、見ている人の興奮を妨げないようにしたいと思っています。そこに尽きるかもしれません。あと、僕はアクセルを踏んだ時、強めに踏む傾向があるので、そこはそういう人だと思って見てもらえると嬉しいです(笑)。ピッチで戦っている選手たちに対して、純真無垢な心で、みんなが人生を懸けてやっている舞台だと感じながら見てほしいですね。国を背負って戦う選手たちに対して、時に「何なんだ」と言いたくなる気持ちもわかりますが、それぐらいのプレッシャーを抱えながら必死にピッチに立って、この舞台でパス1本を通していることすら尊い。それぐらい夢を叶えていたり、目標にたどり着けるか、着けないかの瀬戸際で頑張っていたりする人たちを応援してほしいですし、その一つひとつの瞬間に感動しながら見てほしいですね。