ワールドカップでは若きスーパースターが誕生する。

 昔で言えば1958年のスウェーデン大会で大活躍してブラジルに初優勝をもたらした17歳のペレ、直近のロシア大会で言えばその圧倒的なスピードを見せつけてフランスの優勝に貢献した19歳のキリアン・ムバッペ。あの“皇帝”フランツ・ベッケンバウアーも20歳で1966年のイングランド大会に出場して脚光を浴びた。

 スーパースターの資質を持った若いタレントを発見するのも、ワールドカップの一つの楽しみ方である。「Number渋谷編集室 with ABEMA」の企画として、サッカー解説者の戸田和幸さんに「カタールワールドカップで見るべき23歳以下の若手選手」を語ってもらった。

■■■

 若いタレントを「発見」と言っても既にブレイクしている選手は少なくありませんし、世界中のリーグが見られるようになったこの時代においては、「まったくの無名の選手」などいないと考えていいでしょう。今回はあくまで自分が見てきたなかで、カタールワールドカップでも面白そうだなと思える選手をランダムに挙げていければと思います。

 まずもって現代のフットボールではスーパースターの定義が変わってきました。サッカーにおけるインテリジェンスが高く、4局面(ボール保持、非保持、攻から守、守から攻)を当たり前にすべてできることが最低条件。そのうえでスペシャリティーがどこにあるかが問われています。

現代のスーパースターの条件

 私から言わせれば、ベルギー代表のケビン・デブライネはまさにそんな現代におけるスーパースター。ピッチの上から見ればここに立つ、走る、パスを出すって分かるのですが、彼はそれを平面レベルでやってしまいます。もはや異次元のレベルですね。トップ下やファンタジスタタイプの選手がディフェンスの部分を免除されるのはひと昔前であって、現代はそういった選手においてもしっかりとしたディフェンス力が求められます。すべてが高いレベルにある若い選手がゴロゴロといるのが現代でもあります。

 この前提に立つと、ジャマル・ムシアラ(ドイツ代表/バイエルン・ミュンヘン/19歳)、フィル・フォデン(イングランド代表/マンチェスター・シティ/22歳)の2人はとても楽しみです。彼らは前線、中盤で複数のポジションを高いレベルでこなすことができ、FW、MFというポジションの括りではカテゴライズすることが難しい選手です。2人ともフィジカル面においてもペースが速く、スプリントを繰り返してこなせます。

 そしてスペシャリティー。ムシアラは狭いスペースでも技術の正確性と判断能力の高さをプレーで示すことができ、フォデンはトップスピードに入ってもしっかりとした技術を発揮し、判断も的確です。代表チームでも、本来の輝きを発揮できれば今よりもさらに注目を浴びるようになるでしょう。

 何でもできたほうが望ましいというのは後ろのポジションの選手にしてもそうです。センターバックのニコ・シュロッターベック(ドイツ代表/ドルトムント/22歳)はサイズがあっても動けるし、キックの精度もある。ドリブルもいい。すべて揃っていて、とてもキラキラして見える選手です。

 センターのMFで個人的に面白いなと思っているのは、まずオーレリアン・チュアメニ(フランス代表/レアル・マドリー/22歳)です。長年中盤を支えたカゼミーロが離れたレアル・マドリーはどうなることかと思いきや、今夏モナコから移籍してきた彼がその不安を払拭しています。守備はもちろんのこと攻撃面での展開力も素晴らしい。フランス代表はエンゴロ・カンテ、ポール・ポグバともにケガを抱えていますが、チュアメニという新たな力によってチーム自体がポジティブな意味で変わっていく可能性はあると言えます。

昨年9月にA代表で初出場したチュメアニ。22歳はフランス代表を変える存在になれるか ©Getty Images
昨年9月にA代表で初出場したチュメアニ。22歳はフランス代表を変える存在になれるか ©Getty Images

 デクラン・ライス(イングランド代表/ウェストハム/23歳)は非常にタフで耐久力があり、走力もあります。戦術理解度も高い。ただプレーメーカーではないため、良いパートナーがいれば、もっと彼の能力が生きるんじゃないかと感じます。

 もう一人はモイセス・カイセド(エクアドル代表/ブライトン/21歳)。9月にドイツで行なわれた日本代表との親善試合でも相手との距離を詰めるスピードが速く、クリーンに奪ってすぐ前に出ていける。この点においては日本の選手とはだいぶ違うなという印象を持ちました。チュアメニこそレアル移籍でサッカーファンに知られるようになりましたが、ライス、カイセドを含めたセンターMFのこの3人は世界的にもっと認知されていくのではないでしょうか。

23歳のデクラン・ライス。二重国籍を持ち、2018年まではアイルランド代表でプレーした過去を持つ ©Getty Images
23歳のデクラン・ライス。二重国籍を持ち、2018年まではアイルランド代表でプレーした過去を持つ ©Getty Images

カナダ代表に注目せよ

 ほかに挙げるとすればカナダ代表の2人ですね。アルフォンソ・デイビス(バイエルン・ミュンヘン/22歳)とジョナサン・デイビッド(リール/22歳)。アルフォンソ・デイビスはバイエルンで左サイドバックを任されていますが、カナダ代表では前めのポジションでプレーしていて戦術理解度、プレーのクオリティーがいずれも高い。ジョナサン・デイビッドはまだそこまで世界的に知られていませんが、彼もまた何でもできるタイプのストライカーで、現在のサッカーに適合したタイプと言えるでしょう。

 個人的に注目しているチームの一つがこのカナダ代表です。北中米カリブ海予選ではアメリカ代表、メキシコ代表を相手にそれぞれ1勝1分けと負けていません。そして何よりも女子代表監督としてロンドン、リオと五輪で2大会連続銅メダルを獲得したジョン・ハードマン監督がコレクティブに戦えるチームをつくっていて、世界を驚かせる可能性を秘めています。そのカギを握っているのが、アルフォンソ・デイビスとジョナサン・デイビッドの2人だと言えます。

アルフォンソ・デイビスのA代表デビューは2017年。カナダ史上最年少だった ©Getty Images
アルフォンソ・デイビスのA代表デビューは2017年。カナダ史上最年少だった ©Getty Images

 プレーに多様性のある、全体的に“まとまった”選手を中心に挙げてきましたが、そういうタイプばかりが魅力的なのかと言われれば、決してそうではありません。

シーズン中に開幕する醍醐味

 たとえばダーウィン・ヌニェス(ウルグアイ代表/リバプール/23歳)のプレーは、はっきり言って粗いです。とはいえパワーがあって、スピードがあって、得点感覚も持っている。凄くワイルドでピッチが狭く見えるほど。とても魅力を感じる一人ではあります。

「23歳以下」と年齢で括ればビニシウス・ジュニオール(ブラジル代表/レアル・マドリー/22歳)やペドリ(スペイン代表/バルセロナ/19歳)らも当然入ってくるのですが、今回は基本的には、もっと知られてもいいのに、と思える選手を中心に名前を挙げさせてもらいました。

 今回のカタールワールドカップはこれまでとは違う11月開幕になります。欧州ではシーズン後じゃなくシーズン中ですから、選手たちが疲弊していないという見方ができます。その意味で言えば、クラブでの出場状況やパフォーマンスがワールドカップに直結してくるはずです。若くて、目を引く選手は本当にたくさんいます。このなかに入れていない選手が、ブレイクする可能性も十分にあるでしょう。そういったことも含めて、僕自身もワールドカップを楽しみたいなと考えています。

(構成=二宮寿朗)