0-1とリードを奪われてから逆転勝利を奪った自信
世界を驚かせた日本代表のドイツ代表戦での勝利。日本にとってワールドカップ(W杯)史上初の逆転勝利は、W杯優勝経験のある国から公式戦で挙げた初の白星でもある。サウジアラビア代表がアルゼンチン代表を2-1で破った一戦とともに、今大会のジャイアントキリングとして刻まれるだろう。
この勝利について、W杯を過去3回経験しているGK川島永嗣(ストラスブール)は「最高の勝利」と言えば、MF三笘薫(ブライトン)も「全世界がサプライズだと思っていると思います。でも、準備をして最大限にやったからこそ起こせた」と胸を張った。
試合前から選手たちは「勝ちに行く」「勝てる」と語っていたが、実際に格上の相手から挙げた勝利は、森保ジャパンに何をもたらしたのか。
1つ目に挙げられるのは、守備力に対する自信だろう。GK権田修一(清水エスパルス)が相手選手に与えたPK以外、日本はボール保持率で圧倒されながらもゴールを守り切った。DF吉田麻也(シャルケ)、DF板倉滉(ボルシアMG)、DF冨安健洋(アーセナル)の3バックは、世界トップクラスのアタッカーとも渡り合えることを示し、GK権田もその後のセービングでチームを救った。
さらに勝ち越した最終盤には、川島も「最後は相手がどうやって来るか、自分たちで対応しなければいけなかったですが、それを耐えて勝利できたことが一番大きい」と語ったように、DFアントニオ・リュディガーに加え、GKマヌエル・ノイアーまで上がって来た相手のパワープレーを含め、2点目を与えずに耐えきった。
三笘も、「0-1という状況からも結果を出せるということ、チームの戦術を変えていくこともできたので、それは今後にも生きると思う。どんな状況になっても、冷静に戦うことが大事」と話す。これまでリードされてから点が取れないと指摘され続けてきたなかで、ドイツから2点を奪って逆転した自信。準備をしてきた4バックと3バックを使い分けられることの自信も、大きいはずだ。
「日本が勝つことが一番」の気持ちが生む“一体感”
得点にMF南野拓実(ASモナコ)、MF堂安律(フライブルク)、FW浅野拓磨(ボーフム)といった途中出場した選手たちが絡んだのも大きい。MF守田英正(スポルティング)が「途中から出場した選手がああいう形で結果を出したことで、出られなかった選手たちも『次に自分の出番が来たら、ちゃんと準備をしていれば結果を残せる』と思える良い前例ができた」と語ったように、チーム全員の士気も高まった。
こうした大会を戦うチームは、試合に出る選手と試合に出られない選手の関係が悪くなることが少なくない。しかし、これまでにない26人という大所帯ながら、森保ジャパンからは雰囲気の悪さを全く感じない。南野は「誰が出ても日本が勝つことが一番。スタメンでも途中出場でも、チームのためにやるべきことをやる」と話したが、全員がチームのために何ができるかを考え、与えられた出場機会に備え、ピッチに立ったら全力を出している。
4度目のW杯のピッチに立つDF長友佑都(FC東京)は、「ドイツ代表のベンチと、日本代表のベンチの雰囲気は、全く違っていた」と言うが、堂安や浅野がゴールを決めた直後、ベンチから飛び出して全員で喜びを爆発させる姿は、まさに全員が1つの目標に向かっていることを示しているようだった。
ドイツ戦での勝利は、これまでの日本代表の歴史のなかでも最も大きな意味を持つ勝利だろう。こうした短期のトーナメントでは、選手やチームが劇的に成長することも少なくない。この経験値を生かして、森保ジャパンはこれまで未到達のベスト8の扉を開くことができるだろうか。(FOOTBALL ZONE特派・河合 拓 / Taku Kawai)