FIFAワールドカップカタール2022でサッカー日本代表はベスト16という結果に終わった。日本代表がまだ見ぬベスト8という景色を見るためには、何が必要だったのか。第一線で活躍する遠藤航、鎌田大地、堂安律らの言葉から、日本代表が抱える課題を考える。(取材・文:元川悦子【カタール】)

●またも達成できなかったW杯ベスト8

 2002年日韓大会、2010年南アフリカ大会、2018年ロシア大会に続くベスト16敗退に終わった日本代表。史上初の8強という「新しい景色」はまたしても見られなかったわけだが、W杯優勝経験のある強豪のドイツ代表・スペイン代表に勝利し、グループ1位通過したことへの評価は高い。森保一監督の2年続投も本決まりになりそうで、当面の日本代表強化は2018年から続く現路線の踏襲ということになる見通しだ。

 カタールW杯の日本は「恒常的にベスト16入りできる総合力を身に着けた」という印象を残したが、16強の壁を確実に超えられる領域に達したかというと、そうとは言えないだろう。現在8強に残っているブラジル代表、フランス代表、イングランド代表、アルゼンチン代表などの強国に比べれば、タレント力・フィジカル能力含めて物足りない部分があるからだ。

 今大会の日本代表を今一度、振り返ると、まず守備陣の綱渡り状態は非常に気になる点だった。中山雄太の負傷辞退を受けて、町野修斗を追加招集した点は、やはりいまだに引っ掛かるものがある。

 その時点で板倉滉は左ひざ負傷から完全に回復していなかったし、冨安健洋も右足負傷を再発させていた。さらに直後には遠藤航の脳震盪も起きた。そう考えると「守備要員を追加すべきだったのではないか」という疑問はどうしても拭えない。

●メンバー選考を難しくした選手層の薄さ

 実際、大会に入ってからも冨安、酒井宏樹、遠藤がケガで別メニュー調整を強いられ、板倉が累積警告でクロアチア戦出場停止というアクシデントが起きた。吉田麻也、谷口彰悟・山根視来もイエローを1枚もらってリーチ状態に陥った。クロアチア代表戦で警告が出なかったからよかったものの、日本代表の守備陣はいつ誰が欠けてもおかしくないほどギリギリの状態に追い込まれたのだ。

 これだけDF陣が手薄だったのだから、瀬古歩夢や佐々木翔、菅原由勢らDFを追加するか、旗手怜央のようなマルチな選手を入れておくべきだったという考え方も根強い。町野が出番なしに終わった分、そういった意見が強まるのも納得できる。

 森保監督がそれをしなかったのは、上記の追加候補者たちが「W杯基準で見て計算できる戦力」という指揮官基準に満たなかったからではないか。欧州5大リーグで実績を積み上げる吉田、板倉、冨安、Jリーグで頭抜けた存在感を示す酒井、谷口らと比べると、瀬古や菅原らが見劣りするのも事実。そこがどうしても引っ掛かったのだろう。

 森保ジャパン発足後、東京五輪世代のDF陣が成長し、A代表の主軸を担える人材が出てきたのは朗報だ。が、その人数はまだまだ限定的。本当に8強以上を常時狙おうと思うなら、板倉、冨安クラスの高さと対人能力を備えた選手が複数はいないと難しい。行きつく先は、やはり「選手層の問題」と言うしかないのだ。

 それはアタッカーについても同様。今大会の日本は堂安律、三笘薫、浅野拓磨の3枚がジョーカーを担ったが、肝心のクロアチア代表戦では久保建英が体調不良で欠場した。堂安が先発に回った途端、切り札の駒不足が一気に健在化した。森保監督が期待を込めて投入した南野拓実が違いを作れなかったのも大きかったが、老獪な前回準優勝国を追い詰めることができなかったのである。

 遠藤もしみじみとこう語っていた。

●遠藤航、鎌田大地はどう考える?

「相手は(ルカ・)モドリッチと(マテオ・)コバチッチを途中で変えた。あれだけの選手をあそこで変えられることに差を感じたし、それだけ選手がいるということだと思う。

 自分たちもこれだけ海外でやってる選手がいる代表は初めてで、今までにないくらい選手層が厚かったと思う。でももっともっと個人のベースを上げないといけない。上のクラブでポジションを勝ち取る選手が増えていかないといけない」

 それは、以前から鎌田大地が言い続けてきたことでもある。

「W杯の強豪国を見れば、そのメンバーはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメントに勝ち残るクラブで試合に出ている選手ばかり。日本もそうなれば自ずと8強、4強にたどり着けるようになる」

 昨季UEFAヨーロッパリーグ(EL)制覇を経験したアタッカーは事あるごとに強調していたが、この4年間でどれだけハイレベルな人材を輩出できるのか。それが悲願達成のカギになると言っていいはずだ。

 ただ、その道のりが険しいことも覚悟しなければならない。今大会ブレイクした堂安が興味深い話をしていた。

●堂安律が感じる世界のトップとの距離

「世界のトップに手が届くところまで来ているという手ごたえをつかめた? この大会では感じなかったですね。(トップの)近くに行けば行くほど、(距離が)遠くに感じるというのは自分の中で感じるんで。

 同学年の(キリアン・)エムバペを見たら分かる通りですし、オランダの(コーディ・)カグポだって、自分が同じクラブにいた時にはベンチだった選手。あれほど飛躍する姿は想像もしていなかったですし、追いかけていくのに必死。誰よりも努力しないといけないと思います」

 カタール大会2ゴールと乗りに乗っていた背番号8が神妙な面持ちで語るのだから、個のレベルアップと言うのは一筋縄ではいけない。ただ、それをしなければ、日本代表の前進がないのも確か。4年後は彼ら東京五輪世代が20代後半の円熟期を迎えるだけに、2016年の北中米W杯で5度目の8強チャレンジを結実させられるかは彼ら次第と言っても過言ではない。

 森保監督続投となれば、手塩に育ててきた97~2000年生まれの選手を重視し続けるはず。だからこそ、三笘や堂安、久保、出番のなかった町野らは世界相手にも違いを作れるアタッカーにならなければいけない。今回メンバー入りしなかった中村敬斗、原大智、林大地らを含め、この世代がしのぎを削り、分厚い選手層を構築できれば、希望が見えてくる。

 次の4年間を絶対に無駄にしないためにも、彼らには成長曲線を可能な限り、引き上げてもらうしかない。

(取材・文:元川悦子【カタール】)

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