●サッカー日本代表を勇気づけるサウジアラビア代表の勝利

 サッカー日本代表は23日、FIFAワールドカップカタール・グループリーグE第1節でドイツ代表と対戦する。久保建英は選出の「当落線上」と見られた時期もあったが、自身の力を所属クラブで証明して大舞台で戦う権利を勝ち取った。来るドイツ代表戦を前に、攻撃のイメージを膨らましていた。(取材・文:元川悦子【カタール】)

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 史上初のワールドカップ(W杯)8強という「新しい景色」を見るべく、ロシアW杯からの4年44カ月を費やしてきた日本代表。23日の初戦・ドイツ代表戦でその真価が問われることになる。

 今大会のアジア勢を見ると、カタール代表がエクアドル代表に0-2に敗れ、イラン代表がイングランド代表に2-6で大敗。世界最高峰との差は依然として大きいようにも映る。

 それでも、日本代表と最終予選で同組だったサウジアラビア代表がアルゼンチン代表を撃破。戦い方次第ではサプライズを起こせることが分かった。日本代表にとっては大いに勇気づけられる出来事だったと言っていい。

「明日は我々が勝利を目指して戦う上でベストなメンバーを選んで試合にのぞみたい」

 22日の前日会見に登壇した森保一監督は、普段と変わらない落ち着いた様子でこうコメントした。左ふくらはり違和感を訴えて長く別メニューだった守田英正も出場可能というが、回復間もないリスクのある選手を頭から出すのか否か。そこは指揮官の判断次第だろう。

 ボランチは流動的だが、2列目から前は9月のアメリカ合衆国代表戦のメンバーがベースになるだろう。となれば、左サイドは21歳の久保建英が有力だ。6月シリーズの際は「当落線上」と位置づけられていた最年少アタッカーが、重要な本番の初戦で定位置を確保するというのは、やはり地力がある証拠ではないか。

 久保は神妙な面持ちでこう語っていた。

●久保建英が考えるワールドカップで重要なこととは?

「今回のW杯も何とかギリギリで滑り込んだ感覚がある。逆に持っているなと。W杯の開催時期であったり、いろいろ持っているなと思うので、チャンスを与えられるかもしれない立ち位置にいることをしっかりともう一回噛み締めて、自分の最大限できるプレーをやりたいなと思います」

 左サイドの久保がやるべき仕事はいくつかある。まずはハードワークを厭わず、献身的な守備を見せること。最前線で先発するであろう前田大然がスイッチ役を担い、久保は鎌田大地、伊東純也との2列目3枚でしっかり連動したプレッシングに行く必要がある。

 特に久保のサイドはヨナス・ホフマン、セルジュ・ニャブリらが陣取ってくると見られるため、久保は背後に位置する長友佑都、あるいは伊藤洋輝と協力しあいながら、確実に相手をつぶす仕事もこなす必要がある。

 アメリカ合衆国代表戦でも高い位置でボールを奪ってフィニッシュに持ち込むシーンがあったが、そういった形に持ち込めればベスト。相手が前がかりになればなるほどチャンスは広がるということになる。

「『守る守る』って入ると、どうしても押し込まれちゃうと思うんで、できるならば攻めていく姿勢を取ることが大事だと思います」と久保自身も語っていたが、いい守備がいい攻撃につながるということを今一度、強く認識してゲームに入ることが肝要だ。

●貪欲な姿勢を見せる久保建英の野心

 もう1つ重要なのは、得点に直結するプレーを見せること。2019年6月のエルサルバドル代表戦で初キャップを飾ってから3年5カ月。久保は代表では1点しか奪えていない。6月のガーナ代表戦で長い長いトンネルを抜け出したまではよかったが、そこからゴール量産体制に入れていないのは事実と言える。

 カナダ戦では前半19分に、南野拓実が中盤からドリブルでボールを運んで出したパスに反応。左サイドを駆け上がり、またぎフェイントを入れて左足を放ったが、惜しくも枠を越えていった。

 さらに、南野とハイプレスに行き、奪ったボールを思い切って打ちに行った35分の場面、田中碧の左への展開から強引に打ちに行った前半45分のシーンなど、得点への貪欲さを強く押し出していた。しかし、どれも決め切ることはできなかった。

「今日の試合だったら、まだまだやらなきゃいけないと。もっと本番の相手は強いと思うので」と背番号11は高い領域を見据えた。そのチャンスをモノにできて、初めて「日本代表を勝たせられる存在」になれるのだ。

 年齢こそ最年少ではあるが、久保は10代の頃からスペインで自己研鑽を図ってきた選手。「今度こそ自分が決めて日本を勝利へと導く」といった野心に満ち溢れているに違いない。それをいかにして結実させるのか。そういう意味でも、ドイツ代表戦は非常に興味深い。

●攻撃の活路を見出す久保建英

「うまくサイドチェンジできたら、逆サイドの選手は当然、シュートチャンスが生まれると思う。シュートにしろクロスにしろ、いいサイドチェンジがあった時はしっかりプレーをやり切ることを心掛けていきたいなと思います」と本人も幅を使った攻撃に活路を見出す考えだ。

 さらに、機を見ながらの1対1の仕掛け、いい位置でのFKというのも久保のゴールにつながる可能性がある。とりわけ、FKに関しては年代別代表の頃はよく決めていたが、A代表ではなかなか決まらない。

「壁の位置が近くて難しい」と彼自身も以前、話していたことがある。そういった難しさを乗り越え、2010年南アフリカW杯の本田圭佑のように、世界を震撼させるゴールを決めてくれれば、日本代表も久保自身も楽になる。

「(FKは)チャンスが少ないと思うんで、まずはそこまで行くことが重要ですけど、チャンスがあった場合は、右だったら僕は蹴りたいなと思います」

 21歳のW杯ゴールが飛び出せば、日本史上最年少ということになる。が、「世界で見れば全然若くないんで、そんなことを気にしてもしょうがない」と本人はキッパリ。チームの勝利のために戦うことしか考えていない。

 代表では長く足踏み状態を強いられた久保がカタールの地で輝き、キーマンとして大仕事をしてくれれば、日本代表は新たなステージにステップアップできる。近未来の日本のためにも、背番号11をつける男には、持てる力の全てを出し切ってもらいたい。

(取材・文:元川悦子【カタール】)

【了】