【FIFA ワールドカップ カタール 2022・グループC】アルゼンチン2-0メキシコ(日本時間11月27日/ルサイル スタジアム)
絶体絶命のピンチから蘇ったアルゼンチン。2-0でメキシコを葬った2点は、エース・メッシのゴールと、メッシのアシストだった。
【映像】メッシのアシストから2点目、強敵メキシコを葬る
切り刻むドリブル。タッチライン際のフェイント。そしてゴールマウスにパスを運ぶようなシュート。「アルゼンチンのエース=メッシ=ゴールゲッター」というイメージを持たれがちだが、実はメキシコ戦2点目のようにメッシのパス能力も超一級品だ。
メッシのプレーの最大の特徴は、「ボールを極力見ない」というもの。
普通の選手は、ボールを持つときには、しっかりとボールを見る。ボールを見てボールを止め、ボールを蹴るのだ。当たり前である。しかしボールを見ることで、その瞬間は周りの景色は消えてしまう。
それがメッシにはないのだ。ボールを見なくてもボールを運び、ボールを蹴ることができるから。だから「周りの景色」がメッシには見えるのだ。
「周りの景色」には、味方の選手、敵の選手、その位置、身体の向き、走り出す方向、重心、そして目線の先まで入っている。誰がどう動こうとしているのか?誰がどう向きを変えるのか?が、ボールを足元に置いておきながら自分の脳内マップにインストールできるのである。
こんな事ができるのであれば、パスが一流にならないほうがおかしい。
だから本当は「ボールを受けるメッシ」よりも「ボールを出すメッシ」の方が相手は脅威になる。
その昔、アルゼンチンのレジェンドで伝説の選手であるディエゴ・マラドーナが
「自分にはマークが厳しすぎるので、一試合で3度から4度しかボールを触れないかもしれない。でも、その3度のボールタッチで、ゲームを終わらせるパスを出す自信が俺にはあるのさ」
そう豪語していた。
それを証明するように、1990イタリアW杯のノックアウトラウンド1回戦のブラジル戦。終了間際の80分に、0-0の均衡を破るカニージャのゴールを生むボールを配給したのはマラドーナだった。足首の可変だけで、ボールのコースを変え、数十センチしかないようなブラジルDFの隙間を通してみせたのだ。
それは、どんなチャンスメーカーが繰り出すスルーパスよりも美しく、鮮やかで、残忍なパスだった。
マラドーナの全てを継承したメッシも実は同じ能力を持っている。バルセロナでもPSGでも、メッシはゴールだけを狙うエゴイストではなく、チームの勝利を最優先するプレーを選択するクレバーな選手なのである。
アルゼンチン代表を今よりももっと力強く、今よりもさらに勝者としてふさわしいチームとなるためには、メッシにボールを出す選手よりも、メッシにボールを要求する、メッシのボールに合わせて走り、メッシとパス交換を楽しむ、メッシのボールでダンスを踊ることが出来る選手が必要なのかもしれない。
「ゴール数8・アシスト数6」
こんな数字を残せる選手、それがリオネル・メッシなのだ。
文:橘高唯史
(ABEMA/FIFAワールドカップ カタール 2022)