モロッコ戦敗退後、クリスティアーノ・ロナウドを見て抱いたのは、ひょっとして彼は自分の中に潜むもう1人のC・ロナウドと一緒にアル・トゥマーマ・スタジアムのピッチを後にしていたのではないかということだ。それほど自分以外のことに関わりを持ちたくなかった様子だった。

 打ちひしがれたチームメイトを慰めることも、モロッコの選手を祝福することもなかった。失意のCR7は、CR7のために泣きながらドレッシングルームに引き揚げていった。

 その道中、常にエゴのメーターを最大スケール値に設定しているトッププレーヤーは、敗退以外のことも反芻していたはずだ。彼を苦しませていたのは、マンチェスター・ユナイテッドに居場所がなくなったこと。現在37歳で、再びワールドカップの舞台に立つのは難しいこと。控え選手としてその最後になるであろうカタール大会に別れを告げなければならなかったこと。ようはCR7を失ったことだったろう。

 サッカー史に宝石のような足跡を残した偉大な選手に相応しくない去り方だったのは間違いない。W杯通算ゴールは8にとどまり、9ゴールでポルトガル代表における記録保持者のエウゼビオ超えを果たすことはできなかった。
 
 W杯の決勝トーナメントでは無得点というジンクスを打ち破ることもできなかった。最大のライバル、リオネル・メッシがプレーするアルゼンチン代表は決勝に駒を進め、明暗が分かれる形となった。

 CR7が感情を発露した姿は、今世紀最高のスーパースターの1人の人間らしい一面を白日の下に晒した。ユベントスとマンチェスター・Uを続けてケンカ別れのような形で出て行ったように、カタールでの活躍を疑問視する声は当初から出ていた。

 結局のところ、キャリアの黄昏時に差し掛かっている自身の身体の声に耳を傾け、その現実を心の内に取り入れるという偉大なスポーツマンにとって最も難易度の高いゴールをクリスティアーノは決めることができなかった。天才的なプレーヤーであるCR7と、複雑に入り組んだサッカーは、もはや相容れることはなかった。

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 その点、メッシは対照的だった。肉体が衰える中、ウイング、トップを経て、現在のゴールから逆算して攻撃のシナリオを描くフリーマンへと徐々に役割を変えていった。一方のクリスティアーノは、ある時を境に、ペナルティエリア内に縄張りを限定させた。そのお陰で得点力を発揮し続けたが、相手ゴールへ近づけば近づくほど、数字にこだわればこだわるほど、レジェンドたらしめた矢のようなダイナミズムを失っていった。

 しかし、CR7はスーパーだった頃のCR7しか認めることができなかった。監督のフェルナンド・サントスへの悪態は自身のエゴをコントロールできなかったことが引き起こした行動で、その後、ベンチに降格させられた。

 おまけにCR7抜きのチームは、決勝トーナメント1回戦で、スイスに6-1で圧勝。代役のゴンサロ・ラモスがハットトリックを達成した。しかしCR7は何があっても呪われた運命に抗おうとし、パートナーや姉妹は、フェルナンド・サントス監督へのバッシングを煽った。

 今、スター中のスター、CR7は無力だ。所属チームも定位置もゴールもW杯も慰みもすべてを失った。CR7に執着するあまり、時の流れを受け止め、胸を張ることをやめれば、サッカーも自身のために嗚咽してくれることを理解できなかった。
 
 クリスティアーノは、もっと違う形でカタールを去らなければならなかった。それこそファンの歓声を浴びながら、スタジアムを一周するような舞台演出で、だ。次のW杯が開催される頃は41歳になっている。今回が最後のW杯となる可能性が大きいが、そもそもトップレベルを維持するには、それに相応しい新天地を探さなければならない。

 敵味方のファン、チームメイト、相手の選手、そして世界中のファン。全員が総立ちで送るはずだったが、CR7はCR7と一緒に去ることを選んだ。去り際もいつものように俺様気質だった。

文●ホセ・サマノ(エル・パイス紙)
翻訳●下村正幸

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